一般社団法人CO-SAKU谷 シモキタFABコーサク室は、学校法人自由学園(東京都東久留米市)の「超本格高校生インターンプログラム『飛び級社会人』」に協力しています。早いもので、インターン期間も折り返しとなりました。
コーサク室の存在価値は何だろう?
このインターンプログラムは来年2月中旬に終了し、得た学びを発表する場が3月初旬に開催されます。その場で高校生たちは、プログラムを通じて得た学びを発表することになります。
ルーチンワークがなく、メイカースペースという事業のためお客様対応を経験する機会もなかなか提供しづらいコーサク室で、高校生たちにどんな学びを提供できるのか。悩んだ末に、インターン期間後半は「CO-SAKU(コーサク)」という私たちのコンセプトと存在価値をアウトプットする、という課題に取り組んでもらうことにしました。
この課題を高校生たちに話して、どうする? どんなふうに取り組んでいく? と聞いてみたら。
- コーサク室にきた人にインタビューしたりアンケートを取ってみる
- 下北沢のお店の人にコーサク室のことを聞いてみる
- ガチャガチャマシンをつくる
- 聞いたことを整理して、見えたことをガチャガチャに入れて引いてもらう
というアイデアが出てきました。
ほほう、なるほど。でも、少し困ると同時に、心配になってきました。
お客様はそんなに来ないし。
下北沢のお店の人のほとんどは、コーサク室のことを知らないし。
ガチャガチャマシンをつくるのは、簡単ではないし、それなりに時間も必要。
そして、ガチャガチャで引いてもらって、その先は?
そこで、いったん学校へ持ち帰って、高校生4人で話し合い、目的をはっきりさせて対象や施策を整理し、企画にして再度教えてください、とお願いしたのです。

▲シモキタロボフェス2025にガチャガチャマシンを持っていくため、カプセルに入れる動物パズルをレーザー加工で製作してもらいました。レーザー加工機が動いている間、関心は3Dプリンターへ・・・
教えないワークショップ
翌週のインターンの日、3Dプリンター体験ワークショップを高校生の皆さんに体験してもらうことにしました。4人とも3Dプリンターに興味津々だったこともありますが、実は、もう一つ理由があります。この体験ワークショップを開催する時に使っていたスライド内容に、「なんだかちょっと時代遅れ感」を抱いていたのです。この時代遅れ感の正体を探るため、高校生たちに受講してもらうことにしました。

▲Tinkercadを使って3Dデータを製作中。隣のテーブルには3Dプリンター「Bambu A1mini」を置いて、近くで見られるようにしました

▲招き猫とアヒルさんが乗っかったネームプレートデータ。画面では大きいけれど、実際のサイズは・・・

▲アヒルがいる!

▲招き猫もできてる!積層されていく様子を楽しそうに見守っています

▲3Dプリンターが動くたびに聞こえてくる声・・・「あー」「うわっ」「あー」
使ったCADソフトはTinkercad、高校生ともなれば触って直感的に操作がわかって、どんどんデータ制作は進みます。3Dプリンターの扱いも、フィラメントのセッティングからやってもらいましたが、モニターを見てあっという間にできました。そう、教えることなんて、ほとんどないのです。
今回使ったBambu社の機材は、本当にこの一年で3Dプリンターをかなり気軽に手に入る、技術力がなくても使えるものにしたと思います。教えてもらわなくても、触れる、やってみるとできる、わかる。
スライドの「時代遅れ感」の正体は、「触れる、やってみる」を促進するものではなく「教えてあげる、知識をつける」内容になっていたからではないか、と思いました。スライド説明をしている間の高校生たちの眠そうなこと、手を動かし始めたら眠気はどこかへ行った様子、そんな姿が物語っていました。
最後に感想を聞いてみました。
「自分の手で作ったものは一つだけのものだけど、3Dプリンターを使ったら簡単に同じものがたくさん作れちゃうのが、なんだかちょっとなあと思った」
そう、そのとおりです。だからこそ、マーケティングや著作権のこと、クリエイティブ・コモンズのことなど、「作って、その後どうする、どうなる」というあたりへ関心を向けてみてください。
「自分ではないものが動くのが、不思議な感じがした」
そう言われてみると、そうですね。私たちの生活は、人間以外のものがたくさん動いてくれて成り立っていますが、それを作ったのは人間ですねえ・・・。
楽しい時間をありがとう!

▲出来上がった作品はこちらです
未知の期待をアウトプットする
さて、「CO-SAKU(コーサク)」という私たちのコンセプトと存在価値をアウトプットする、という課題への取り組みについて。高校生たちは、皆で話し合い、アウトプットの姿まで考えてきてくれました。その内容は、発表のお楽しみにしておきましょう。ここでは、彼らがお客様にアンケートやインタビューをする時のために、コーサク室の方向性を少しお伝えしたいと思います。
高校生たちとの話し合いの中で、「コーサク室の良さをお客様に聞く」という言葉が出てきていました。
「3Dプリンターなどの機材がある」「いろんな人が使っている」「居心地がいい」などなど、設備等に対しての「良さ」はある程度予測できそうですが、コーサク室にある機材や工具は限られており、スタッフによるサポート提供は必要最小限です。メイカースペースとしてもっともっと「良い施設」は、たくさんあります。
2年ほど前からコーサク室は、少しずつ事業の方向転換をしてきました。それまでは、アーティストによるワークショップをたくさん開催したり、自分達もイベントを主催したり、お客様に集まっていただくために試行錯誤しながら頑張っていました。けれど気づいたら「こういう姿のコーサク室にしたかったんだっけ? CO-SAKUって、こういうことだっけ?」とモヤモヤ考え込んでしまうことが多くなっていました。
コーサク室という環境を自ら選び、自分の場所として大切にしてくれる人に、使ってほしい。
どんな人にどんなふうに使ってもらえたら、私たちの存在価値が出てくるのだろう?
いろんなお客様やワークショップの様子を傍で見守りながら気づいたのは、ものづくりを「教える」人の志向性の違いでした。大きく分けて、次の二つの志向性がありました。
- コミュニティ型の場で、時間内で楽しく取り組めるようサポートすること
- 技術を伝え、その人が自分でできるようになるプロセスを支えること
それまでのコーサク室は、どちらかといえば前者、コミュニティ型の場で教える人・そういう場に参加したい人が集まってくるようにという努力をしてきたのだと思います。けれど、このような人たちが集まってくれることだけでは、コーサク室の存在価値を存分に発揮することはできないのではないかと気づきました。
私たちがコーサク室を立ち上げるに至った背景には、まさに後者、「教える・教えられるという関係性に頼ることなく主体的に試行錯誤しながらものづくりをする」というプロジェクトを、半年以上にわたって取り組んだことがあります。さらに、参加者としての経験だけでなく、提供・運営する立場は、時間の確保と関係性構築、そして他者の技術習得の伴走をできるレベルの経験や技術力が求められ、とても難しいということも、ロボコンのプロジェクトマネジメントを通じて実感してきました。その経験を活かし、後者の難題に取り組む人たちに貢献する、選んでもらえる環境創造をしたいと考えたのです。
この方向転換をした以降は、シモキタロボフェスの開催が実現し、ドイツのMakers Unitedという素敵なご縁もいただくことができました。そして地域の人たちをはじめ、コーサク室を応援してくださる人の言葉を聞くと、私たちの活動を通じて未知の未来への期待を感じることが多くなってきました。
未来は「未知」のものです。
インタビューでもアンケートでも、既知の良さも悪いところもきっと出てきます。高校生の皆さんが五感をフルに働かせて、それらをつなげたりじっと見つめて考えたりすると、お客様が期待しているコーサク室の未知の存在価値のヒントが出てきそうです。自分たちの感じたことや言葉、経験を大切にして、自信を持って取り組んでほしいと思います。
自由学園「超本格高校生インターンプログラム『飛び級社会人』の様子はこちらから